聖誕祭前夜

下手人:烏間鈴女

12月24日は聖誕祭前夜(クリスマス・イブ)だ。
だからと言って味噌煮込みうどんの業務内容が大幅に変更されるわけではない。いつものように料理を出し、業務に励むのみ。
客層が大幅に変わるわけでもない、ごく普通の一日だ。
閉店時間を迎えるまで、忙殺されるほどでもないもののそこそこに忙しい時間が、普段と同じように過ぎる。
店内に飾られたクリスマス用の装飾が、少し寂しそうに揺れていた。

店じまいをして、普段は夜食を食べる時間帯になった。
「さて……と」
厨房で何か作ろうとしていたのか、食材に向かって掌破を炸裂させようとしていたファイト・オーを眼鏡ビームの一撃で黙らせながら、遠啼ひばりはぽつりと呟いた。
ちなみにその一撃を食らったファイトは、若干の焦げを作りつつも割と平然と起き上がって残念そうにゆっくりと食材を片付けている。
「今日も終わりますね」
「ああ、そうだな。明日は聖誕祭か」
「そうですね」
「せっかくだから、お祝いの何かいいもん作ろうと思ったんだが……」
「掌破でですか?」
「掌破で」
「……掌破で?」
「掌破で」
「…………」
「社長。眼鏡がまた不自然な輝きを放ってねえか」
「気のせいです」
淡々と応じるひばりに、ファイトは諦めたらしく、本格的に食材を片付けだした。
その手を休めることなく、彼は何かに気づいたように呟く。
「そういえば、ポラ子とノ……ノメァは?」
ポラ子ことポラリス・エイムズと、ノメァことノメァ・ピドュポエガ。後者は発音がしにくかったようだ。
二人とも、この味噌煮込みうどんの従業員であり、まるで姉妹のように仲が良い。
普段通りなら、この時間には厨房にやってきて、みんなで夜食をつつく頃なのだが……。
そんなことを考えていると、ひばりの眼鏡の端に何かが映った。
「……ん」
「どうした?」
日付表示。12/24。
その横に、小さなロウソクのマークが点灯している。
「ああ、そういえば、私としたことが失念していたようです」
「あん?」
「今日は――」

その頃、ポラリスは、ぽつんと店の2階の窓に佇んでいた。
味噌煮込みうどんの住居スペースである。
ここからは、星がよく見える。
ホワイトクリスマスの気配のひとつも感じない、澄み切った夜空だった。
「あら、ポラリス。こんなところでどうしたの?」
「……ノメァおねーちゃん」
部屋の扉を開けてやってきたのは、顔を見るまでもなくノメァだと分かった。ポラリスが姉のように慕う、大切な仲間。
「夜食の時間なのに出てこないから、どこにいるのかと思っちゃった」
「ソーリー。心配掛けちゃった?」
「そこまででは、ないかな」
「そっか」
応じると、ポラリスは再び空を見やる。
綺麗な夜空。元いた世界とあまり変わらない夜空。
あの日連れ去られた夜空。そこまで、ノメァは追いかけてきてくれた。
自分の名前の由来となった北極星が、きらきらと煌いている。
「何か思い出してたの?」
「……ううん。なんでもないの。ドンウォーリー」
ゆっくりとかぶりを振るが、ノメァは納得しなかったらしい。
「しばらく、私も一緒にいていい?」
「……うん。窓から落ちないでね」
「ちょっと!? 私だって別にそれくらい……ああ、そうね、そうよね。気をつけるわ」
「お、おねーちゃん……」
「むしろ流れ星がこっち向いて落ちてこないことを祈っておいて」
「えええええ!? ウェイトプリーッズ!?」
冗談のつもりで言ったポラリスだったが、割と真剣に受け止められてしまって、ノメァのことが心配になる彼女だった。というか、彼女の最後の一言こそ冗談に決まっているのだが、そういうことが起きそうな可能性が一瞬でも脳内によぎるから恐ろしい。
彼女は、常に不幸を背負っている。とてつもない不幸体質だ。普通なら考えられないような不運も、確率を無視したかのように(いや、実際問題として無視しているのだろう)、よってたかって彼女を襲うことを、ポラリスはよく知っている。ずっと傍にいるからだ。
それでも、ノメァは悲観することこそあっても、完全に屈したりはしない。
強いなあ、とポラリスは思う。
だからこそ、なのだろうか。彼女のことが大好きなのは。
わたしも強くなりたい、そうポラリスは思う。
ヴァンパイアクォーターとして、強い力を持っているのは確かだけれど、そちらではなくて。
どんな困難にも立ち向かっていける強さが、生きていける強さが。
欲しいし、憧れているのかな、と、時々思うことがある。
そんなことを柄にもなく考えてしまう理由は簡単で。
今日一日が普通に過ぎ去ってしまいそうだったから。
自分にとって特別なこの日が、何もないかのように進行してしまうのが、ちょっと寂しくて。
「ポラリス」
ノメァが、自分の名前を呼ぶ。
あったかい声だ。
それから、温かい手がポラリスの頭を撫でる。
「私は、忘れてないわよ」
そのまま、腕が下りてくる。
肩に回された、力強い、不幸を乗り越える手が、柔らかく抱きしめてくれる。
それだけで。
それだけで……さっきまでの弱い自分が、どっかへ行ってしまった。
先ほどまで浮かべる余裕のなかった笑顔が、ごくごく自然にわきあがってくる。
こういった寂しさは、きっと彼女も時折抱くことがあるのだろう。
お互いに、そういうときに。支えることが出来るのならば、とても幸せだろう。
「おねーちゃん」
「なあに?」
「……ありがとう」
くすりと、ノメァは優しく笑ったのが分かった。
そっと、ポラリスはノメァに体重を預ける。
もう少し、もう少しだけ。こうしていたい気がしたから。

「おや、ポラ嬢とノメァ嬢は?」
「あの二人、どこ行ったんだろうな」
「困りましたね。せっかくポラリスさんの誕生日を祝おうと思ったのですが、ケーキがありません。迂闊でした」
「私が作ろうか。……しかし味噌の味のケーキはな」
「あー。……それじゃあ、俺の出番だな。この掌破で未来を拓く!」
「やめてください」「やめんか」


中途半端なので切られた。
日付残ってないですが、過去の発掘品。
捏造ごめんなさい。いや本当にごめんなさい。
あとファイトさんも殴ってごめんなさい。

  • 最終更新:2015-07-11 19:11:45

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