不幸輪廻

書いたやつ:わんころ





ノメァは悩んでいた。

自分は不幸をたぐり寄せる存在。

願っていない未来を築き上げ、その不幸は他者をも飲み込む。

厄災の具現者。そう呼ばれてもおかしくない。

彼女が不幸をもたらす、それを聞いて受け入れられる人などこの世界にいるだろうか。

…否、だと、思っていた。

少なからず、味噌煮込みうどんでは受け入れられている。孤独だった自分を、こうして受け入れてくれた。

だからこそ、悩んでいた。

自分の存在とは、本当にあってもいいものなのか。

答えのない質問。分かっている。

その質問を、誰にぶつければいい。

誰も答えない。答えられない。

回答がなければ、作り出せばいい――…



「…お、お姉ちゃん、二人きりって…えっと、」

「ポラリス…お願いがあるの…」

とても深刻な顔をしていたと思う。

でも、誰かを頼りたかった。

その答えを出すのは、一人では怖すぎたから。

…だから、お願いポラリス…

私を…助けて…



たまたまやっていた小さなお祭り。小規模ながらもいくつか屋台が出ており、一人街を歩いていたノメァは特に関心を持たず素通りしていった。

自分が屋台にでも立ち寄ればどうなるか。この日にかけて品物を詐欺価格で売りつける人々。今日の売り上げで自分の子供の為に妖怪おもちゃを買ってあげるんだ…!と、意気込み、必死にお客を引き寄せる親のあの笑顔。希望に満ち、輝きあふれているそれ。

そんな夢を、目の前で破壊活動してしまうのが私だ。一度顔をのぞかせれば、そこには野犬が襲来し屋台を破壊する、あるいは強風が吹いて全ての食材をダメにする。鳥の大群が押し寄せて一斉に爆弾を投下するかもしれないし、いっそのこと大地震が起きて全てなかったことにするかもしれない。自分はそんな人なんだって、割り切っていたから何も思わなかった。

そう、たった一つの、極悪非道な屋台を見つけるまでは。

「なん…だと…!?」

唖然とした。これほどまでに酷い屋台があっただろうか。

思わず親友を抱きかかえ、恐怖に怯えてしまった。

全く、何という悪い冗談か。

いくつの親友の仲間が犠牲となっただろうか…いいや、犠牲になるだけならまだいい。食する、即ちそれは親友の仲間の誕生でもあり、同時に死を意味する。それは世界の理であり、誰もねじ曲げることなどできない。

だが、この屋台はその理を徹底的に侮辱しているのだ。親友の仲間をはぎ取り、そして…偽物を生み出すのだ。
思わず震えた。親友のことを、思わず3回くらい見てしまった。

あぁ、なんて酷い…惨い…そう思いながら、ノメァは恐る恐る店名を見る。カラフルな暖簾…そこには、可愛らしい文字でこう書かれてあった。


 ―チョコバナナ、と―




― 不幸輪廻 ~お祭りの食べ物って美味しそうだけど悲劇起きやすいから色々と怖いよねしかも高いし~ ―




「…つまり、チョコバナナが食べたいんだね?」

「違う、その悪魔の所行を口に入れてなかったことにしてやるのよ!」

だからそれを食べたいっていうんじゃ、とポラリスは少し期待した感情に後悔していた。そりゃあ、二人きりだっていうのも、こうやってわたしを頼ってくれたのも嬉しい、けど、違うそうじゃない。

しかし、よく見るととても可愛いものではある。自分の不幸をまき散らすだとか、盛皮君の同族に惨いことをしているだとか言っているものの、内心は食べたくてうずうずしているのだ。…まあ、自分の不幸体質を気にしているのは本当だろうが。

「お姉ちゃんって、こういう屋台の食べ物って買ったことないの?」

「まあ、こういう身だもの…そういうポラリスは…あー、慣れてるって感じがするわね。」

てへへ、と可愛らしく笑ってみせる。すでに手には様々な屋台の品が詰まれていた。いつ買ったんだいつ。

「普通にプリーズって、お金用意して言えばいいんだよ。そんなにケアフリーにならなくてもいいんだよお姉ちゃん。」

「だって…大地震起きたり、大津波きたり、メテオ飛んできたりしそうで

「そんな大災害起きたら厄神様ってプレイするから、ドンウォーリー!」

その前に、そうなったら生きていない気がするのだが。

不慣れもあるし、何か起こりそうだという思いからか、いつもより悲観的になっているらしい。でも、と躊躇うノメァの背中を強く押し、行っておいでと催促させる。流石に躊躇ってばかりでは前に進めないと思ったのか、ついには腹をくくり、お金を握りしめて店員に話しかけた。

「あ、あの…ひ、一つ…」

「ん、毎度。そっから取ってくれ。」

そこから取る。ノメァにとって、それがどれだけ恐ろしいことか分かったものではなかった。

一般の人であれば何事もなくそれを手にいれることができるだろう。しかし、彼女はノメァも歩けば犬に噛まれる、という新種の熟語を作り上げたピドュポエガだ。何事もなくそれをゲッチュウすることなど到底不可能だ。

「…えぇ、それは…私一人なら無理でしょうね…でも!私は…私は一人じゃないのよ!!」

何のためにポラリスを連れてきたか。彼女にはとても申し訳ないが、それは一つの賭だった。

もしも自分がそれを手にしようものなら、それは一瞬にして燃え上がり、灰になり、店に引火し、大惨事となるだろう。ただ商品に手を伸ばすだけで大げさな、と思うだろう?それを否定できないのがノメァの怖いところなのである。

それは本人もよく分かっている。故に、店の前で1時間考え込んだ末、彼女はこの結論に至ったのだ。

なお、その悩んでいた間というのは店から10メートル離れた位置であったために、その店主には気づかれていないということだけ補足しておく。別の店主は何してんの、と思っただろうが。

「全く、大げさなんだから…はい、ヒアユアー。」

はいどうぞ、優しく微笑んでポラリスはノメァに差し出す。それは親が子供に買ってあげる、そんな光景に見えた金出したのはノメァだけど。

「…ありがとう、ポラリス。」

人生初の屋台体験。屋台というものは本当に魔性の効果がある。普段何とも思わない食べ物が、このときばかりは大変美味しそうに見えるだ。普段なら金額もぼったくりで到底手が出ないはずなのに、何故かこのときばかりは、それに思わず手を伸ばしてしまうのだ。

ただし、その分感動も大きい。ここまで来るのに一体どれだけの時間がかかっただろうか。店を見つけ、驚愕し、悩み続けた。その結果が今、実を結ぼうと…

ポロッ

「あっ」

唐突に、本体が落ちた。

「……」

「……」

べしゃっと、もの悲しい音が響き渡る。惨い胃ことに、それは盛皮君の皮の前で末路を遂げた。

自分の中身が、すぐそこで死んでいく…グロテスクな光景を、盛皮君に見せることとなってしまった。

「…ごめんね盛皮くぅううううん!!!!」

叫ばずにはいられなかった。思わず親友を抱きかかえ、泣きわめいてしまった。

言うなれば、親友の目の前で親友の親族を殺してしまったようなものだ。許されない罪。その罪は、あまりにも大きすぎる。器に入りきれない水。あふれ、流れ出したそれを、私はどうすればいい?

『…あ、うん。うん。いや、別に…どうでもいいんだけど…』

しかし、盛皮君は寛大であった。なんと、自分の中身が目の前で朽ち果てても、一切何も叱咤しなかった。むしろその声からは困惑の響を感じる。

「ごめんなさいっ…私が…私が不幸を振りまいたばっかりに…!私のせいで…私のせいで…うわぁああああああん!!」

…この場で、一番の被害者は間違いなく店主である。なんか勝手に商品を落とされ、勝手に泣きわめかれ、勝手にバナナの皮を抱かれているのだ。

この上なく迷惑な客である。あぁ厄い厄い。

「…いや、あの…い、いいよ?もう一本持っていきなよ?」

店主の良心…というわけではない。この娘のせいで、通りすがりの人たちがこっちに視線を向けているのだ。ここで一本おまけしてあげなければ悪い評判がたつ。そう、肌で感じたのだろう。

「…いいの?」

「…うん、むしろ、持っていって?」

持っていってくれないと、その茶番劇終わらないでしょ?その言葉はそっと胸の奥にしまった。

ノメァと盛皮君の感動的なドラマは、一般の人から見ればゴミと痛い人間にしか見えない。悲しいかな、それが現実というものだ。

ぶっちゃけポラリスも、この時点で大分おいてけぼり状態になっている。

「…店主さん…ありがとう…!!」

涙を拭いながら、商品に手を伸ばす。なんという奇跡だろう、今度は落ちず、しっかりと箸に刺さっている。店主の慈愛は、彼女を救ったのだ。

嗚咽を漏らしながら、そのバナナを口に運ぶ。酷く、その時間がゆっくりに思えた。

しかし、落ちなかった。そのバナナは、決して落ちることはなかった。

…そうだ、バナナは落ちなかった。もうこれで、自分は幸福者だと、確信していた。

それが、浅はかだったとは。

「おかーさーん!こっちこっちー!」

ドンッ ザクゥッ!!

「こらっ、走らないの!」

唐突なる子供のバックアタック。ぶつかったことさえも気づかず、子供とその母親は通り過ぎていった。

…ポラリスは、その一部始終を見ていた。目の前で、しっかりと。

「……」

静かに、ノメァはその大地に倒れ伏した。

「おねえええちゃぁああああああん!!だ、誰かヘルプゥウウウウウウウウ!!」

やはり、自分は最後の最後まで不幸だったか…しかし、悪くはない。口には、入ったのだから。

ノメァ・ピドュポエガのそのときの表情は、とても、ヤスラカナ ホホエミーだったという。


因みに、落ちたバナナは盛皮君が美味しくいただきました。カニバリズム?知らない知らない。





後書き。今日お祭りあったんです。

  • 最終更新:2015-02-11 15:23:32

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