はないちもんめ

書いたの:わんころ



私はとても残酷な遊びを知っている。

二人のグループに別れ、グループの片方の人を互いに指名し、そしてジャンケンをする。

勝った人はそのチームにその人を迎え入れられ、そして再びゲームが進行する。

指名される。それはつまり、その人でなければならない理由がある。

なら、私は?

死ぬべき存在である私は、

そのゲームに、どう参加すればいいというのか。

指名以前に、仲間などいない私に。

そもそも、混ぜてもらう価値はあるのだろうか。



味噌煮込みうどん。そこに新しく一人の少女がやってきた。ノメァ・ピドュポエガという、どないして発音しろと、DQNよりも混沌とした名前の持ち主である。本人もその名前は気に入っておらず、しかしかといって自分で自分に名前をつけるのも気が引ける、ということで結局このままになっているのであった。

ここにやってきた理由はそれこそ『たまたま』。たまたま旅の途中にここに訪れ、そこでたまたま自分とよく似た少女と出会い、たまたま「おねーちゃん」と呼ばれるようになってしまい、そのままずるずる居座るようになってしまったのである。

旅立とうとしても全力で阻止られる。宛のない旅のゴール、うっかりできてしまった瞬間であった。
その少女の名はポラリス・エイムズ。明るく天真爛漫、どこか過激で一人突っ走っていく、そんな子であった。それはもう、くっついて離れないのなんの。ぶっちゃけその辺に生えているひっつき虫とかの方がまだタチがよろしい。そんな少女に絡まれ、このまま味噌煮込みうどんで雇われ、居座ることになった。


そして、今に至る。


「…ダメだろ私!!」

ゴォオオンと、大きな音を立てて近くにあった木に額をぶつける。晴天の下、誰もいないところだったので、そのぱっと見自虐行為なそれに口を出すものはいなかった。

別に、忘れたわけではない。自分は生まれてくるべき子ではなかった。生まれながらの不幸体質、その体質のせいで自身の家族を皆殺しにした。その罪は、自身が生きることでしか償えない。自分だけが生き残ったことによる、彼女なりの結論だった。

それから、彼女は独りでいることを決めた。それは、自身の体質でこれ以上の被害者を増やさないため。それも、自分が負うべき罪の一つなんだと信じ、貫いてきた。

だが今はどうだ。こうして、一定のところに完全に居座ってしまっている。私の志というものはこんなものだったのか。これでは、また誰かを不幸にしてしまう。早急に立ち去らなければ…そう思うものの、ポラリスが許してくれない。

…今なら彼女は居ない。このままこっそり出ていけば、あるいは。

「…っ!?」

何故か、動かない、否、動けない。

はて、私が何かしたというか。もしかして、脱走しようとしたら逃がさず社畜のように働かせる社長のご意向とか、そんなのか。

と、ひばりさんが聞けばメガネビームの一つでも飛んできそうなことを思ったが、冷静になって気がつく。…頭突いた拍子に角が刺さったのか。

額の角というのは、ナイトメアの象徴である身体的特徴。普段はあまり大きくないので(肥大化させることが可能、さまざまな恩恵が出てくる)前髪で隠れて忘れがちなのだが、それは自分が『忌み子』であることの立派な証拠だった。その角の存在を感じる度に、自分の存在を否定し、そして、悲観した。

今回はそんなことをする前に、銀色の髪の少女がやってきたわけで。

「…おねーちゃん、何してるの?」

背後から聞こえてきた、不思議そうにノメァにそう尋ねる声。これがノメァのある意味では支え、ある意味では鎖となる少女、ポラリスだ。

確かに木に頭をひっつけ、不動の状態なのを見ると誰が見ても何してんの、の一言はかけたくなる。

「…刺さった。」

「…ワッツ?」

流石に恥ずかしかったのか、ポラリスからは見えない頬を赤らめる。刹那、思い切り力を込め、その木から角を引っこ抜いた。この穴はのちに小動物が住むなり虫の巣になるなりするだろう。

「で、どうしたの。」

「おねーちゃんこそワッツァップ?ルックホーしたよ。」

特有の片言な言葉。どうしたの?探したよ、と言いたかったのであろう。意味はいまいち伝わってなくても、何が聞きたかったのかは何となくわかる。

「別に、何でもないわよ。」

と、そっけなく返す。しばらくは腑に落ちない顔をしていたが、やがてそっかと短い返答。相変わらずの笑顔だった。

「それじゃ、今日もお仕事ファイトー!わたしも張り切っちゃうよー!」

「あんたは張り切ってもロクなものにならないでしょーが。」

と、思わず苦笑を漏らす。が、同時に、自分が苦笑を漏らせるほど、彼女に心を許していることが分かった。本当、独りでいようとするのに、彼女は私を邪魔してきて仕方がない。

…でもここで反抗して仕事をさぼったらさぼったで、あの謎の文明が生み出した兵器から熱光線が飛んでくるのが事実。ひとまずはまあ、彼女と一緒にお店のお手伝いをしようか。



独りになれば、名前は呼ばれる

その名前は、意味があって呼ばれる?

仕方なく?本当はいらない?

どうして、独りになった?

それは、意味のある独り?



「…で、よ。ほんっとね、私何日ここに居座るつもりなの。」

一日が始まる前と、一日が終わる前には同じ場所にやってきていた。遠くの星空を見つめ、夜風に髪を靡かせた。長い銀色の髪は月明かりを受け、麗しく輝く。

毎晩自己嫌悪に陥っては同じように自己嫌悪に陥る朝を迎える。少しずつ、ここに居てもいいじゃないかと自分に囁く悪魔が大きくなってきている。暖かさに慣れることの恐ろしさ。分かっているはずなのに、思わずすがりたくなる。

一つ、ため息。風に浚われて、それは誰かの元へとたどり着いた。

「やあ、お悩みのようだね。」

風下だろうか。一つの陰がゆっくりと動き、ノメァに近づいた。声からして男性のようだったが、姿を確認するには遠く、はっきりとは分からなかった。

「脅かしてすまない。ただ、君が辛そうにしているのを見ていたものでね。」

そう言って、少しだけ笑って見せる。もっとも、彼女にはその表情が見えていないのだが。

「…余計なお世話よ、勝手に関わってこないで。」

「おや、これは厳しい。少し君に救いの手をさしのべてやろうとしただけだというのに。」

「何を――」

そこで気がつく。手元に、きらりと光る何かが見えた。大抵、それが何であるかは決まっている。紅の瞳もその光を見逃さなかった。

「成る程、汚れた魂は嫌いだと言うのね。」

「あぁ嫌いさ。だが、それは君もじゃあないのかい?君は、君が嫌い。無関係に人を不幸へと誘う君自身が、誰よりも。」

「っ……」

生きることに価値はあるのかい?そう、言いたいようだった。

自分は罪を償いながら生きなければいけない。そう答えようとしても、口は動かなかった。自分でどこか思っているのだ、”それはただ、自分がのうのうと生きるための理由にすぎないのではないか”と。

「僕の元においでよ。楽にしてあげる。生きる価値のない君に、終わる理由をあげる。君ももう、生きるのが辛いんだろう?何があったかは知らないが、その瞳を見ていれば分かる。ナイトメア、それは…人が受け入れることができない、汚れた種族。生きることさえも罪な君たちに…せめてもの救いをあげようじゃないか。」

ゆっくりと近づき、得物を見せる。さながらそれは、手を差し伸べているようにも見えた。

独り、名前を呼ばれない少女。存在の価値も、生きる理由もない迷い子。

その少女が揺らぐ。独り、決して指名されずに残ってしまった。それが当たり前で、そうあるべきだと閉じこもった。

そっと、その手を取ろうとする。惹かれる。

自分なんて、所詮は――…


刹那、金属音が一つ。

甲高い、音が一つ。

気づけばそこには、もう一人の少女が、己の得物を携えて立っていた。


「…イッジョーク。そんなの、わたしが許さない。」

強く、紅の光がその陰を射抜く。真っ直ぐ、揺らぎのない強い光だった。

何が起こったのか、把握するよりも速く、少女は男の首に鉄の塊を近づける。

「…成る程成る程。お仲間、というわけかい?分かっているのか、そいつが、どんな存在であるか…」

「分かっていないのはおにーさん。何も知らないくせに、勝手なこと言うな。」

黙るしかなかった。口を開けば、何か喋れば、頭と体をつなぐものを断ち切られる。

そう思わせるほどの、圧倒的な眼光。陰はただ怯み、そして、去るしか道は残されていない。

強すぎる光には強すぎる陰が生まれるというが、その光はその陰を焼き付くし、灰をも残さない。

…そう、思わせた。



手が伸びた。名前を呼んでもらえた。

でもそれはただの自問自答だった。

私は独り。だから、独りでいよう。

私が、私であるために。

でもそれは、本当に、

私自身、そう願ったこのなのか。



「おねーちゃん、アーユーオケー?」

大丈夫?と、そっと手を伸ばす。それをじっと見つめて、取らなかった。

月明かりが紅の、弱々しい光を照らす。今にも消えそうな、そんな光だった。

「…何で助けたのよ。」

「…逆に、何であの手、取ろうとしたの?」

「だって…正論じゃない…私は生きるだけで人を不幸に陥れる…じゃあ…生きてるより、死んだ方がいいじゃないっ…それで、それでこれから不幸になる人が幸せになるのなら、それで

「何も分かってない!!」

言葉を遮り、強く怒鳴る。白銀の月の下、紅瞳はその色に染まらずに美しく輝いた。

「おねーちゃん何も分かってない!わたしが…わたしがおねーちゃんが来てくれて、どれだけ救われたかっ…!
生きることで周りがミスフォーチュン?じゃあ、じゃあわたしはどうなるの!どうしたらいいの!誰の手を取ったらいいの!誰が、誰がっ…!!」

「……」

あぁそうか。

そうか、君も。

…同じ、名前を呼ばれない少女だったのか。

勝手に勘違いをしていた。私は彼女が、ただの偽善行為で手を伸ばしていたものだと思っていた。

けれど、それは違った。

彼女の差し出したその手は、

失わないように、必死に助けを求めた手だったんだ。



独りの少女、呼ばれる名前に意味はない

同じく独りの少女、その子もまた、呼ばれる名前に意味はない

しかしながら、それは1対多のとき

二人で互いに呼びあって、互いに指名して

そして二人共になれるのであれば、そこに、意味のない名前はない

独りを生まない、独り二人になる

そして、そこに独りぼっちはいない



勝っても負けても、二人になれる

そんな素敵な素敵な『はないちもんめ』





あとがき。何だこれ。

  • 最終更新:2014-11-20 22:31:36

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