さがせど、さがせど

書いたねこ:桜林囃子








「カミサマってヤツはいるかいないか分からないだろう?」
「そんなもの信じる気になれないんだよなあ」
「もし、目の前に現れてくれたら――そうだな、願い事を叶えてくれって言うね。大金持ちになりたいよ」
 そんなことを言っていた人がいた。
 もちろん、「はい、自分が神です」なんて言っても信じてくれなかっただろう。
 世の中そんなものだ。
 そして、誰かを大金持ちになんてしてやれない。
 自分に出来るのは、少しの奇跡だけだ。
 それすらも不安定で時に失敗もする。
 まだ、己は未熟だ。
 ――そして無力だ。
「あああああ、迷ったああああっ!」
 目の前で膝から崩れ落ち、両手を地に着く女性の姿があった。
「私があそこの木を曲がったからああっ」
「あう、あの、あの……」
 アヴニールはわたわたしながら、事の顛末を思い出していた。



「鍋が食べたい!」
「鍋?」
「ザッツライト!」
 ポラリスは得意げにふんぞり返った。
「もう直ぐ春だよ! その前にフーブツシを食べ納めだね!」
「ああ、なるほどね」
 アヴニールはそんなポラリスとノメァの会話を聞きながら、「ああ、春になったら花が綺麗に咲くんだろうなあ」とぼんやり考えていた。
「オーランのところに食べに行くの?」
「ノンノン! 鍋は皆で材料を持ち寄って、鍋パ! これがベストだね」
「な、鍋パ……? どこでそんなの覚えてきたの……」
「楽しそうでしょ?」
「そうねえ。じゃあ、一緒にお買い物行く?」
「どうせなら秘密にして買おうよ! 被っても恨みっこなしでさ!」
「ふむ」
「ニールもそれでいいよね!」
 突然話を振られて、「うへ?」と呆けた声を出してしまった。
「鍋パしよーよ!」
「い、いいけど……僕、一人は心細いな」
 土地勘のない場所だけに、一人でうろつくのはなかなかの勇気が必要だった。
「じゃあ、二人ずつ行く? あ、くじ引きでさ、コンビを決定しよう!」
「……一人足りなくない?」
「オーランは調理器具担当ということで!」
「あ、なるほど……」
 ――と、いうことで。
「何でファイトと一緒なのぉ!」
「俺で何が不満か!」
「酷い事しかやってこなかったじゃんー!」
 という二人を置いて、アヴニールとノメァは一足先に食材探しに出発した。
「鍋の具ねぇ……何があるかしら」
「野菜とか、お肉とか……?」
「定番ね。まあ、あの子が変わり種を持ってくるでしょうから……私達は普通の物でいいかな?」
「うん」
「でも普通といってもなあ……ニール、食べたいものある?」
「うーん……キャベツとか白菜とか……あ、茸、とか?」
「いいわね。折角だから採りに行こうか?」
「うん!」



 ――というわけだった。
「ノメァさん落ち着いて、大丈夫だよ」
「そ、そう?」
 そこで彼女ははっとして「あ、ニールが何とかしてくれる? ってこと?」と目を輝かせた。
「う、ううん、普通にこのまま迷子だけど」
「うわああ、ごめんねぇ、私が不運なばっかりにぃい」
「そこは大丈夫だよノメァさん!」
 まだ日は高いし、凶暴な何かが出るような森ではない。
 もし出たところで、ノメァの戦闘力とアヴニールの回復があれば乗り切れるだろうが。
「あ、ほら、山菜みたいなのがあるよ。持って帰って食べられるかオーランに聞こうよ」
「……ニールは」
「うん?」
 ノメァは顔を上げて、アヴニールを見つめた。
「幸運の神様なの?」
 それは畏怖でも、疑心でもなく、純粋な好奇心である。
「……うーん。違うと思う」
「じゃあ、何の神様なの?」
「……ううん?」
 ――何の?
「僕は神様だよ。他所の世界のだけど。それだけだよ」
「何もないの?」
「何でもある、かな……?」
「そうなの?」
「うん」
 ノメァは不思議そうな顔をしたが、アヴニール自身、自分の立場を説明できなかった。
 神でしかないのだ。
 多分、他の世界には何かの神様がいるのだろう。
 自分が「そうじゃない」だけなのだ。
「こう、神様の力でばばっと何とかできる?」
「む、難しいなあ……」
 ごめんねと謝ると、そうじゃないのと彼女は慌てた。
「私の世界にも神様がいたけれど、そんなに詳しいわけじゃないから、つい、ね」
 ノメァは立ち上がり、服についた土を払う。
「神様……か」
 彼女は小さく呟いた。
「私だけじゃ毒茸を採りそうなのよね。神様の力を借りなきゃいけなくなるかも?」
「えええっ!」
「さ、行きましょ!」
 ノメァが笑って先行する。
「茸は木の子なんだから木に生えてるものよね」
「うん。まとめて生えてることもあるってオーランが言ってた」
「よし、探しましょう!」
 ――ばらばらに探してはいけないような気がした。
 アヴニールは先に行こうとするノメァの服を軽く掴んだ。
「ん?」
「離れ離れになると大変だから、一緒に行こう?」
「そうね、そうしましょう」
 まるでカルガモの親子のように。
 二人は森の中を歩き始める。
「ノメァさん、って」
「うん?」
「神様、嫌い?」
「ええ!?」
 彼女は驚いて大げさに振り返った。
「な、何で?」
「何となく……」
「嫌いなんかじゃないのよ。ただ……そう、本当にいるとは思わなかった、かな?」
「うん」
 ――何度も、誰からでも、聞いたことのある返答だった。
「だって、本当にいて、しかもこうやって話して、服の裾を引っ張ってるなんて、思いもしなかったな」
「変かな? 神様っぽくないかな」
「どうかしら。神様っぽいっていうのが、私には……そう、私には分からないけれど、」
 彼女はにこりと笑う。
「こうして話せるほうが、面白いと思うわ」
「……そっか」
「目に見えない存在より、こうしてお喋りできて、一緒に茸探しているほうが、よっぽど素敵だと思うのよ」
 そういいながら、ノメァは「あ、これ食べれるかな」と真っ赤な傘の茸を手にしていた。
「嬉しいな」
「そう? 思った事を言っただけよ?」
「それでも、嬉しい」
 アヴニールは俯いて笑った。
 真っ赤になった顔を見せたくなかった。
「ニールは少し考えすぎなのよ」
 ノメァは真っ白な背の高い茸を篭に入れながら微笑む。
「きっとね」
「うん。そうなんだと思う」
「そうそう。気楽に行きましょ」
 でも、と彼女は続ける。
「神様に興味はあるのよ。私の世界にもいたし。だから、知りたいって気持ちはあるの」
「うん」
「だから、何かあったら教えてくれたら嬉しいな」
「うん!」
 元気よく返しながら、アヴニールは平たい傘の茸を採取する。
 この形はオーランの宿で見たことがあった。
 その隣でノメァは黄色の小さな茸を採っていた。
「ニールがいるからかしら、いっぱい見つかるわねえ」
「食べれるかな」
「オーランに任せるしかないわね」
「僕達じゃ分からないもんね」
「そうねぇ。いっぱい採っても半分くらいは食べれなそうね」
 とりあえず、見つけたものは採取していく。
「わー何かすごいのあるよ! 黄色い網みたいな茸!」
「何だか毒っぽいわね……? こっちの灰色の地味な色の方が食べれそうじゃない?」
「じゃあこっちの空色のも危ないかな……?」
「わあ! 本当、綺麗ね。でも綺麗なのは毒があるっていうし……」
「この赤いたまごみたいなのも危ないかな……」
「とりあえずもって行きましょう。あ、これトゲトゲしてるけど白いから食べられるかな」
「こんにゃくみたいなのもある……」
 という感じで約三時間探して籠が一杯になった。
 後は――
「帰り道がねぇ……」
 茸を探して奥へ奥へと来てしまったのか、それとも入り口に戻っているのかさえ分からない。
「僕、ちょっと飛んでみるね」
「お願い」
 ふわりと浮かび上がって、木々の間を抜ける。
 広大な森で、進むにも戻るにも中々時間がかかりそうだった。
「……あっ!」
 しかし、いい場所を見つけた。
 慌てて急降下し、ノメァの手を掴む。
「もう少し進もう!」
「え?」
「早く早く!」
 アヴニールの興奮っぷりに驚きながらも、手を引かれるままノメァは走ってくれた。
「一体何?」
「ほら、見て!」
 そこは今までとは違い、木があまり生えて居ない場所だった。
 その代わり、燦燦と日光が降り注ぐそこは、色とりどりの花が咲く空間だった。
「わあ……」
 甘い空気がふんわり漂っていて、蝶や蜂が忙しく蜜を集めている。
「綺麗! もう春なのね」
「迷ったからここに来れたんだね。ありがとう、ノメァさん!」
 アヴニールが笑って見せると、ノメァはきょとんとして「そう?」と首を傾げた。
「そうだよ! 僕、花、好きだな」
 白い花に手を沿え、「綺麗だね」と呟く。
「やっぱりニールは幸運の神様なのかもね?」
「そんなことないよ」
「私だったらきっと崖に落ちたり穴に落ちたり蜂が刺してきたりしたわね」
「そ、そんなことないよ……多分……」
 二人は花畑に腰を下ろし、空を眺めた。
「綺麗ね、このまま見ていられるわ」
 雲が流れているのを暫らく眺めた。
「今日は楽しかったな。ノメァさん、また一緒に行こうね」
「え? また迷子になるかもしれないけど……」
「それでもいいよ、楽しそうだから!」
「そう?」
 彼女は小さく笑って、肩を竦めた。



「皆様、先に申し上げねばならないのですが」
 オーランは少し、本当に少し、目を細めた。
「これは寄せ鍋というよりは、闇鍋です」
 どんっと重い音で巨大な鍋がテーブルに置かれた。
 中では良く分からないものがぐつぐつと煮えている。
「それと、ノメァ様」
「うん?」
「ノメァ様がお持ちになった茸のほとんどは毒でした」
「……」
 正直、そんな気はしていた。
「しかし毒ですが、珍しい茸が沢山ありましたので知り合いの研究者が喜んでいましたよ」
「は、はあ……そうなの」
 アヴニールは鍋を覗き込んだ。
 ――匂いは、普通だ。
 だが浮き沈みしているものは、全く何か分からない。
「ポーラちゃん、ファイトさん、いったい何買ってきたの……」
「ノンノン、トップシークレットだよ!」
「食べてみてのお楽しみというやつだな」
「……不安だよ」
 とりあえず、一つ取る。
「あ、茸だ。僕達が採ってきた奴だね」
「あたりですね」
 オーランは正直だった。
「わお、これ山菜?」
「ポラリス様もあたりですね」
「ん? こいつは茸か? 何か、こう、はかとなく毒っぽいんだが――」
「はい、ファイト様もあたりです。食べられますよ」
「……」
 ごくり、唾を飲む音が聞こえた。
「お、おねーちゃん……?」
「ノメァ様、毒は入っておりません。毒は」
「毒は」
 不吉な言葉だった。
「……よしこれだ!」
 出てきたのは。
「……何この長細いの」
「蛇肉です」
「……ありえないわっ!」
 こうして鍋パの夜は深けたのだった――


End...?


あとがき:
ノメァちゃんをお借りしました! ありがとうございます!
今回はアヴニールとノメァちゃんを仲良くさせようと思い、
短編を書かせていただきました!
アヴニールとノメァちゃんが一緒にいるとどうなるのか…
そんなのを妄想しながら書かせてもらいました!

  • 最終更新:2016-09-10 14:53:39

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